令和6年度宇宙戦略基金について

こんにちは、cosmobloom の小野です。

今年度から運用が開始した宇宙戦略基金ですが、HPが公開されてから3か月がたちました。公募テーマは7月から8月にかけて順次公開されており、現在も募集期間中のテーマが多くあります。この宇宙戦略基金は、2023年6月13日に閣議決定された宇宙基本計画に基づいた産業支援政策で、「輸送」、「衛星等」、「探査等」の3つの分野において「市場の拡大」、「社会課題解決」、「フロンティア開拓」の3つの出口に向けてあらかじめ技術テーマを設定して、スタートアップをはじめとする民間企業や大学を最大10年間支援する非常に大胆な支援事業です。

宇宙戦略基金は、実施機関が民間主体であることを重点に置いており、産業としての宇宙利用を本気で目指した取り組みです。開発課題となる技術テーマは宇宙戦略会議にて重要とされた分野から提示され、それに対して民間企業および大学らの実施を募集します。JAXAは技術開発に直接的に関わることはせず、各実施機関のオブザーバ的な立ち位置で支援事業の運営を行います。基金としての支援方法は大きく2種類あり、国として非常に重要と考えられるテーマは委託、重要と考えられるテーマには補助という形で支援を行っています。

例えば、9月12日に募集締め切りとなった「宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術」というテーマは、実施内容がすべて委託事業となっており、それだけ国として重要視しているテーマであることがわかります。実際問題、SpaceXによるロケット輸送能力の飛躍と低コスト化は他の事業者の追随を許さない状況です。日本として宇宙輸送市場で生き残っていくために、革新的な軽量・高性能化および低コスト化は何としてでも実現しなければいけません。

衛星に関するテーマも様々あり、衛星コンステレーションの構築法、光通信を利用した衛星ルータ技術、フォーメーションフライト技術、データ利用などのテーマが設定されています。特に衛星コンステレーションと衛星ルータ技術は密接に関わっています。地上におけるインターネット通信を宇宙で実現するとイメージしてもらえると分かり易いかもしれません。地上では、ネットワークルータやネットワークスイッチといった概念は当たり前に存在していますが、宇宙空間で大量の衛星を使ってネットワークをつくる取組みは非常に少ないです。宇宙空間でメッシュ構造を作るので、大量の衛星を軌道上に配置して衛星同士の通信を行う必要がありますし、衛星同士を有線ケーブルでつなぐことはできませんので、これを光通信で行うことになります。そして衛星には通信先を決定するルーターやスイッチの機能を持たせる必要があります。こうして初めて宇宙空間に通信のメッシュを構築することができるのです。Starlink衛星が衛星間通信に光通信を用いていることを公表した際は、業界内で衝撃が走ったほどです。界隈では予想されていましたがそれもその衝撃は大変なものだったのです。先行事業者に追いつくためにはこのような支援は非常に重要になってくるでしょう。

探査等も月面探査に必要な測位技術、通信技術、電源システムに関するテーマや、や火星・木製探査に必要な大気突入・空力減速技術などがテーマにあげられています。月面探査においてはispace社が民間企業初の月面着陸に挑戦し、JAXA主体のSLIMが高精度着陸技術を実証するなど世界トップレベルの技術を国内で有しているので、その技術開発を後押しするようなテーマという印象です。

もちろん、cosmobloomとしても、マッチする技術テーマがあれば応募することを検討しています。市場全体が拡大しているとはいえ、まだまだ行政のバックアップが必要である分野であることは疑いようがありません。しかし、このような支援があるからこそ研究段階にあった技術が芽を出してゆくのだと思っています。私たちを含めたスタートアップや民間企業は、世界で戦える技術を持っていると考えていますし、このような支援を通じて自分たちの技術を社会実装できれば社会を変えられると考えています。ぜひ私たちの取組みを応援していただけると幸いです。

小野弘幸