エネルギー問題と展開宇宙構造物
こんにちは,cosmobloomの中村です.(旅先からの投稿です.)
地球温暖化や気候変動による自然や社会への影響を抑えるためには,CO2などの温室効果ガスを発生する石油や天然ガスといった,化石燃料の使用を抑える必要があります.こういった脱炭素に向けた動きは世界的に加速しており,世界中の国々が2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロとすること)を実現することを表明しています.また,このカーボンニュートラルへの挑戦は,産業構造の大転換と経済的な成長を生み出すチャンスと世界的に捉えられており,実現のための投資も国内外で急速に増加しています.
カーボンニュートラル実現のために,最近では電力の脱炭素化が推し進められていますが,その筆頭である原子力発電は,安全性や使用済み核燃料の処理などの点で課題があり反対の声もあるというのが現状です.このため,資源が枯渇せず繰り返し利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっており,なかでも太陽光発電が世界各地で実用化されています.しかし,太陽光発電は発電量が日照量によって左右される(そもそも夜間に発電できない)といった弱点があり,さらなる普及の障壁となっています.この限界を超える未来のエネルギーシステムが,宇宙太陽光発電(Space Solar Power Systems: SSPS)です.
SSPSとは,宇宙空間に巨大な太陽電池と送電アンテナを配置し,発電した電力を地球上に設置した受電アンテナ(レクテナと呼びます)に送電することでエネルギー源として用いるというものです.既存の太陽光発電の弱点であった昼夜や天候の影響を受けづらく,実現できれば,ほとんどCO2を発生させることなく安定的な電力を確保できるとされています.現在,JAXAから一案として提案されているものは原発1基分(100万kW)程度の電力を供給できるもので,そのサイズは約2km四方と,とてつもなく巨大なものとなっています.
SSPS実現のためには,太陽電池発電の高効率化,無線送受電の高効率化に加え,超大規模な宇宙構造物の構築技術が必要になります.宇宙構造物としてのSSPSのサイズは,人類がこれまでに全く経験したことのない領域であり,相当な技術的ギャップがあります.(実際,100mを超えるような宇宙構造物は国際宇宙ステーション以外には未だ実現していません.)恐らく,これまで考えられてきたような既存の宇宙構造物では,SSPSを実現することは到底難しく,発電・送電機能を備えた宇宙構造物システムに対する技術革新・ブレイクスルーを生み出すことが必要だと我々は考えています.
cosmobloomでは,以前のブログでも紹介している超軽量SAPや膜面アンテナ(その1 / その2)の設計・開発,軌道上実証,実用化を通して,SSPSに必要とされる技術革新を起こしたいと考えています.実際,研究室単位では日本主体のSSPSの技術実証ミッションに関わる等,すでに取り組みを始めており,cosmobloomとしてもその実現に向けて動き出しているところです.