柔らかい構造の役割と課題

こんにちは,cosmobloomエンジニアの折居です.

最近は,SLIMの月面着陸成功や,H3ロケット2号機の打ち上げ成功など,宇宙分野の明るいニュースであふれていますね.去年は暗いニュースばかりの一年でしたが,足踏みした分だけの成果が着実に現れているようにも見えます.

さて,突然ですが,宇宙構造物を「硬い構柔」と「柔らかい構造」について大別すると,例えば,衛星構体などは「硬い構造」,セイルやアンテナおよびフィルム状の太陽光パネルアレイは「柔らかい構造」に分類されると思います.このとき,「硬い構造」の本質は内部機器を熱や放射線などの宇宙環境から守ることにあり,「構造強度を保証すること」が肝要であると言えます.それでは,「柔らかい構造」の本質に当たること,肝要であることとは一体何なのでしょうか.

宇宙構造物における「柔らかい構造」は,柔軟な梁やケーブル,膜面などの構造要素から構成されますが,これらの構造要素は質量がスケールの1~2乗にしか比例しないという特性があり,小さく折り畳み,大きく広げることが可能であることから,大型の宇宙構造物に広く用いられています.

また,梁要素や膜要素の本質は,”ある節点”から”ある節点”に「変位」と「たわみ角」を伝達することにあります.ここで,アンテナ素子や太陽光パネルなどのデバイスはこの節点上に拘束されることになります.

そう考えてみると,柔軟な構造要素は,変位やたわみ角の伝達によって生み出される広大な節点のネットワークであり,柔軟な構造要素の本質はデバイスに「居場所」を与えること,言い換えれば「場の提供」にあると言えます.

「柔らかい構造」の,デバイスに「場の提供」をするという用途は,膜面展開構造物の成立性が認められるようになってから,急速に検討されるようになりましたが,これに伴って幾つかの技術課題が顕在化しつつあります.そのひとつは,「継ぐ」「貼る」「留める」技術です.

例えば,「場の提供をする膜面」と,「場に拘束されるデバイス」という関係性について考えてみると,「場の大きさ・精度」が大変重要となることが分かります.例えば,太陽光パネルやアンテナ素子は数が多ければ多いほど性能が高まることから,大面積であることが求められますが,これを実装するフレキシブル基板などは,大抵の場合,原反が小さいので,幾つかの基板を貼り合わせて用いる必要があります.また,アンテナ素子などは素子どうしの位置関係がアンテナ全体の性能に影響するため,極めて高い精度で膜面上に配置される必要があります.

このようなデバイスから来る要求に応えていくためには,例えば,膜面同士を簡便かつ高精度に継ぐ技術であったり,膜面上に大量のデバイスを貼付する技術であったり,膜面の位置決め精度を高める技術などが必要不可欠となります.

このうち,いくつかの技術課題については,まさに今,現在進行形で試行錯誤しているところで,近いうちに答えを出したいと思っています.

cosmobloom

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