問い立ての方法について考える

こんにちは,cosmobloomエンジニアの折居です.

社会実装に近い領域で研究をしていると,研究活動のうち学術的に取り組めることが何なのか,よく分からなくなってしまうという問題が起きます.個人的に,社会実装のフェーズに近づけば近づくほど「これは研究なのか,それとも単なる開発なのか」という境界があいまいになり,はっきり「これは研究です」と言える取り組みが乏しくなると感じています.

特にいま現在,航空宇宙業界には空前の社会実装ブームが到来しており,業界全体としてみれば嬉しい動向ではあるのですが,そのような中でも研究テーマをひねり出していかなければならないのが学術的に辛いところかと思います.

しかし,実際には,そのような領域にも研究テーマは数多く存在しており,個人的には,問題はそれをどのように研究の問いとして切り出すかという「問い立て」の難しさにあると考えています.

そして,この「問い立て」の能力の根幹は,研究開発のフェーズを分析し,単に開発を進めていくことが必要な行為と,研究が必要な行為とを漏れなく体系的に知ることにあると言えそうですが,このような方法論については,いったん航空宇宙業界をはなれて,自動車業界など,すでに社会実装を迎えた業界の取り組みに着目することによって見えてくるものがあると考えています.

皆さんは,「品質機能展開」(QFD: Quality Function Deployment)というメソッドをご存じでしょうか.「品質機能展開」は水野滋氏と赤尾洋二氏によって体系化された方法で,顧客に満足してもらえる設計品質を設定し,その設計意図を製造工程まで展開していくことを目的としています.トヨタをはじめとする自動車メーカーで広く使われてきた手法で,複雑な製品開発を体系的に進めるための設計方法として知られています.

「品質機能展開」の実施手順については,「品質要求展開表」「品質要素展開表」「品質表」「品質規格表」「相乗背反特性表」の作成…と延々続いていくのですが,今回は手短に,最初の部分の実施手順をご紹介します.

①「品質要求展開表」の作成

「品質要求展開表」の作成においては,市場の声から,対象となる製品やシステムに対する要求項目を洗い出します.この表を作成することにより,社会実装を実現するために何が重要となるのかが明らかとなります.

作成の際には,顧客だけでなく,エンジニア,上位システム従事者,サプライヤー,経営者など,さまざまなステークホルダの立場に立って要求の洗い出しを行います.また,要求はそのまま並べるのではなく,1次要求,2次要求~3次要求といった形で階層的に整理します.近年はブレインストーミングのためのアプリケーションが充実しており,こういったアプリを利用することで効率的に要求のグルーピングを行うこともできます.

②「品質要素展開表」の作成

「品質要素展開表」の作成においては,対象となる製品やシステムの品質項目を洗い出します.この表を作成することにより,社会実装を実現するために肝要となる特性が明らかとなります.

作成の際には,「物性」,「機能」,「経済」などの品質要素に着目したり,特性要因図(フィッシュボーン図)を描くなどして品質項目の抽出を行います.また,既存の製品が存在する場合は,製品の構成要素を洗い出してみたりすることも良い方法かと思います.

③「品質表」の作成

「品質表」の作成においては,左側に「品質要求展開表」、上側に「品質要素展開表」を配置し、それぞれの関係を星取表のように整理していきます.この表を作成することにより,社会実装のために何を実現することが重要で,どのような特性を明らかにすればよいかが明らかとなります.

私の場合,作成の際には品質要求と品質特性を一つ一つ対応させて,大いに関係があるものについては「◎」,関係があるものについては「△」,関係がないものについては「-」,のような整理を行います.

④「品質規格表」の作成

「品質規格表」の作成においては,品質表の右側に同業他社の製品情報を並べ,品質特性をチェックすることで自身の設計目標を明らかにします.この表から,同業他社において何が出来ている/何ができていないのか,対象となる製品やシステムにおいて何を解決すべきかが明らかになります.

私の場合,作成の際には先行研究において優れた成果が挙がっているものは「5点」,成果が挙がっていないものは「1点」,言及されていないものは「?」といった形で整理を行います.

⑤「相乗背反特性表」(三角帽子)の作成

「相乗背反特性表」(三角帽子)の作成においては,品質要素どうしの関係性を整理します.この表から,どの設計要素を重点的に改善すべきか,どこにトレードオフが存在するのか,そしてどの関係がまだ理解されていないのかが明らかになります.

私の場合,作成の際には要素間の関係が相乗的であれば「〇」,背反関係であれば「×」,現状で関係が分からなければ「?」といった形で整理を行います.

以上が「品質機能展開」の簡単な手順になります,長々とご説明してしまい申し訳ありません.以上の手順を踏まえると何が嬉しいのでしょうか.実は,品質機能展開の結果を論文の序論として以下のように読み替えることができます.

例えば,社会実装のために「○○であること」と「××であること」の両方が必要であり、先行研究ではXらが「○○であること」を実証しているが,「××であること」に関する検討は十分に行われていないとします.

このとき,「○○であること」と「××であること」を両立するためには,「△△機構の特性」と「□□機構の特性」と「◎◎機構の特性」が重要であり,「△△機構の特性」と「□□機構の特性」は相乗関係にある一方,「□□機構の特性」と「◎◎機構の特性」には相反関係がありそうではあるが,定量的に明らかにした研究は存在しないとします.このように整理できたとき,研究として取り組むべき問いはかなり明確になります.学術論文としては,例えば次のような形で問題設定を表現することができます.

~~~社会実装を実現するためには「○○であること」と「××であること」が重要である.先行研究ではXらが「○○であること」を実証しているが,「××であること」に関する検討は十分に行われていない.「○○であること」と「××であること」を同時に満たすためには,「△△機構の特性」、「□□機構の特性」、「◎◎機構の特性」が重要である.

ここで,「△△機構の特性」と「□□機構の特性」は相乗関係にある一方で、「□□機構の特性」と「◎◎機構の特性」の間には背反関係が存在すると考えられる.しかし筆者の知る限り,「□□機構の特性」と「◎◎機構の特性」の関係を定量的に明らかにした研究は存在しない.そこで本研究では,この関係を明らかにすることを目的とする.~~~

いかがでしょうか.中々説得力のある「問い立て」ができている気がします.品質機能展開の実施には結構な労力が必要となりますが,一度作ってさえしまえば,そこから問いが幾つも生まれますし,理論的にストーリーを説明できるので,研究で困ったときに「助けてもらいやすくなる」ということもあるかと思います.研究で煮詰まったときや,何から始めて良いか分からないときなどにもおすすめなので,ご興味のある方は是非取り組んでみてはいかがでしょうか.

技術顧問

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