折り紙の変形ダイナミクス

こんばんは。宮崎です。展開構造物というと,まず思いつくのが「折り紙」ではないでしょうか.昨今の折り紙工学の発展は目覚ましく,計算折り紙による平面の折り畳み・展開挙動の解析や,所望の立体を得るための折り方の導出など,様々な数理研究がなされています(個人的には,東大・舘研究室の研究がすごく面白いと思います).

しかし,実際にポリイミド膜など,非常に薄くて軽量な膜を折ることで展開構造をつくろうとすると,折り目の部分の構成則(変位と力との関係)をどうモデル化するかが問題となります.「折る」とは,素材を無理やり塑性変形させる行為であり,「折り癖」の付け方によって,構成則は異なってきます.最も簡単なモデルとしては,折り目のスプリングバックを考慮した,回転バネモデルで折り目をモデル化することが考えられ,実際,2010年にJAXAが打ち上げたIKAROSの開発においては,簡単な実験からバネ定数を求めて,回転バネモデルで展開挙動を予測していました.

ただ,展開後の形状をできるだけ精度よく予測したい,ということになると,そもそも,どういった折り方が「計算に乗りやすい」(予測しやすい)折り方なのか,というところから考えなくてはならなくなりますし,展開中や展開後の膜の弾性変形を考慮しようとすると,変形を考慮していない一般的な折り紙工学の手法では対応が難しくなります.さらに,宇宙機本体との連成運動も考えると,結局,非線形有限要素法に基づく柔軟多胎動力学により,力わざで?運動を解くのが手っ取り早いかな,という気がします.

もちろん,あまり細かいことにはこだわらず,低次元モデルや機械楽手等を使った,より簡易的な手法で予測することも考えられますし,多分,そういった手法でもそれなりに妥当な結果を得られると思うのですが,ついつい,古典的な力学理論に基づいて解いてしまっています.実際,cosmobloomの解析コードNEDAはまさにそうです.ただ,低次元化の研究等もしていますので,ゆくゆくは,そういった研究をNEDAと組み合わせることもしていければと考えています.

ちなみに,左上の図は,重力等の外力が働かない場で,六角形膜の頂点を引っ張って一葉にピンと張った状態(左上)から,6つの頂点を中心に向けて移動していったときの,膜の変形運動を計算した例です(25年以上も昔に計算したもので,色は,歪エネルギ密度分布を表しています).図の右下の形状は,折り畳み形状に近いものになっています.当時は,膜の“自然な折り畳み方”とはどんなものかを知りたくて,こんな計算をしていました.なお,この折り方を四角形膜に対応させたものがIKAROSの折り畳み方に相当しています.今では,こんなことをしなくても,膜の粘弾塑性変形の構成則を詳細にモデル化しないのであれば,上述の通り,折り紙工学の目覚ましい成果を適用できるわけで,逆に言えば,折り紙工学の成果に,折り目の変形や膜の面内変形の構成則をうまくれ込んで,変形を適切に模擬できれば,様々な先進的な「折り紙」構造物を宇宙でも”安心して”使えるようになるのかなと思っています.

宮崎 康行