いろいろな伸展ブーム
こんにちは,cosmobloomの中村です.
宇宙で大きな構造を構築しようとすると,輸送時の質量・体積の制約から,打ち上げ時には収納し,宇宙空間で展開して大型化できる展開構造が必須となるわけですが,そういった収納性・軽量性を追求すると,膜やケーブルといった極めて薄い,あるいは細い部材を使った構造物(ゴッサマー構造物などと呼ばれます)にたどりつきます.こういった膜などを畳まれた状態から展開させ,さらに展開後にその形状を維持できるだけの剛性を有する伸展ブームは,展開構造において重要な構造要素の一つとなっています.
軽量で収納性の高い伸展ブームとしては,図のような断面が円弧状のテープを円筒ハブに巻き付けておき伸展させる,STEM(Storable Tubular ExtendableMember)と呼ばれる金属製のブームが古くからあります.このように断面が円弧状で,かつ,金属でつくられたテープは,巻き付け収納した状態で手を離すと,ブームが元の形に戻ろうとするため勝手に伸展していきます.このような特性を持つため,自己伸展ブームと呼ばれたりもします.
最近では,軽量性を重視し,上記のブームの材料を金属から複合材(CFRP)に変えたものが盛んに研究されています.特に,CFRPの積層構成を工夫することで,伸展完了時だけでなく巻き付け収納された状態でも安定,すなわち,巻きつけられたままの形状を維持する、双安定ブームと呼ばれるブームが実運用では用いられることが多いです.これは,前述の自己伸展力を有するブームを収納状態で保持しておく(展開しないように抑え込む)ためにはそれなりの力が必要で,大変だからという理由があります.
通常,双安定ブームは自己伸展力を持っていないため,伸展の際はモータ等のアクチュエータが必要になります.そのため,展開が制御しやすいという利点はありますが,構造システム全体の容積や質量が増加する傾向にあり,CubeSatのような小さな衛星に搭載するのはなかなか大変です.一方,自己伸展ブームは伸展のためのアクチュエータは不要で,構造システムを軽量かつ・コンパクトに作ることができるとされています.しかし,前述の通り自己伸展力を有するブームを収納状態で保持しておくのはそれなりに難しく,そのための保持解放機構をどのように作るかといったことや,展開の制御もモータのように自由自在にできるわけではないため,確実に展開するためには工夫が必要です.
このように,伸展ブームにはいくつかの種類があり,どのようなブームを用いるかによりその構造システムの構成も変わります.つまり,そのブームを用いることで,構造システムがどのようなものになるかも含めて,ミッションに適したものを選択する必要があります.cosmobloomでは,お客様の要望に合わせ,適切なブームやその材料,それらを用いた構造システムをご提案し,ミッションを成功に導くお手伝いをさせていただければと考えております.ミッションを行うにあたって,こういった構造が欲しい(とにかくコンパクトに・軽く作りたい,このくらいの剛性が欲しい,このくらいの精度が欲しい etc…)ということがあれば,以下のお問い合わせフォームよりご連絡いただけますと幸いです.
また,研究室ないしcosmobloomでは,既存のミッション要求だけでなく将来ミッションに対する要求を満たすべく,新たな構造様式・システムの研究や,システムの小型化・軽量化,展開信頼性向上のための機構部品の設計・開発,解析等に取り組んでいます.具体的な取り組みに関してはまた別のブログで紹介できればと思います.