ハーネス問題と解決策
こんにちは,cosmobloomの中村です.
CubeSatなどの超小型衛星では,小さなスペースにたくさんのものを詰め込むため,搭載物はできるだけコンパクトに作ることが求められますが,実際にそういった衛星を組み上げるということを考えると,その作業性も重要になります.例えば,電子機器同士をつなぐ配線(ハーネス)の取り回しというのは,衛星の設計・開発においてかなりの負担があります.小さい衛星の中は,搭載機器が隙間もないほどに埋め尽くされており,その合間を縫って配線やコネクタに負荷がかからないようにハーネスを取り回すのは非常に難しい問題です.実際,以前私が開発に携わったCubeSat「NEXUS」(写真のものです)でもハーネスの取り回しは相当苦労しましたし,ISASの特集ページによれば「OMOTENASHI」と「EQUULEUS」(JAXAの6U衛星)でも,通信系のハーネス周りで問題が起きていたようです.
こういったハーネス取り回しの問題を解消する方法の一つとして,衛星の構体パネルの中にハーネスを埋め込んでしまおうというアイデアがあります.この考えをさらに拡張して,パネルの中にバッテリを内蔵したり,電子基板もパネルに取り付けてパネル内部で電気的に繋いだり,といったことを行い,サブシステムとしての機能をほぼ構体で賄うことでバスの質量・体積を抑えよう,というようなアイデアもあります.こういった構造は,そもそも構造が持っている機能(荷重を支えたり,内部機器を宇宙環境から保護する機能)に加えて,他の機能を持っている構造という意味で,多機能構造と呼ばれているようです.
展開/伸展構造において,こういったハーネスの取り回しの難しさというのは,さらに顕著に現れます.例えば,衛星本体からマストを伸展させ,マストの先にくっついたセンサのデータを取得するといった場合,センサには給電線が必要ですし,データ取得のための配線が必要になります.この配線は,収納された状態からマストの伸展と一緒に引き出されていくことになると思いますが,これがマスト伸展の妨げになったりということが起きます.そもそも,どういった風に配線を収納しておくかというのも重要で,ここがコンパクトに作れないとシステム全体の容積が増加してしまいます.また,膜面の展開についても同様のことが言えます.例えば膜面に太陽電池セルを搭載したSAPを考える場合,セルどうしの配線をどうつなぐのか,衛星バスにどういう経路で電力を持っていくのか,といったことを考える必要があります.膜面上の配線には,現状ではフレキシブル基板が使われていますが,何も考えずにフレキシブル基板でセルどうしをつなげてしまうと,収納時にかさばったり,膜面展開の妨げになったりといったことが考えられます.
こういった問題を低減・解消するため,前述の多機能構造の考え方を展開/伸展構造に応用したようなものが提案されています.具体的には伸展ブームの中に配線を仕込んでおく,膜面に回路を印刷して膜面に搭載したデバイスのデータライン・電力ラインとして用いるといったものです.こういった技術はいまのところ研究レベルにありますが,これらを使えるレベルまで持っていければ,展開/伸展構造に機械的だけでなく電気的な機能を付加することが容易になり,その用途が格段に広がります.また,以前紹介したSSPSの実現に向けてもこういった技術はキーになると考えており,未来の宇宙構造物の実現に向けて,研究・開発を進めるべき技術だと考えています.