3Dプリンターでフライト品を作れるか?
こんにちは,cosmobloomの中村です.
3Dデータをもとに立体的なものをプリントする3Dプリンターは,モノづくりにおける製造工程を簡素化できることから,さまざまな分野で活用に向けた取り組みが行なわれています.研究分野でも活用が進んでおり,宮﨑研に初めて3Dプリンタが来てからもうずいぶんと時が経ちましたが,今ではそれがなくては研究が成り立たないぐらいのものになっています.
これまで研究室では,試作品を製作したり,地上実験の治具を作ったりといったところで3Dプリンタが活躍していましたが,これをフライト品にも使おうという取り組みを近頃始めています.3Dプリンタで造形したものが宇宙で使えるとなれば,コストの大幅な削減や開発サイクルの迅速化が期待できるのはもちろんのこと,従来の機械加工に比べ加工の制約が緩和され,設計の自由度が大幅に向上します.簡単に言えば,これまでは形状が複雑で加工ができない,または加工できても莫大なコストがかかっていたようなものを簡単に製造して,搭載できるようになるということです.実際,これまでにブログでも紹介した自己展開ブームを巻き取っておく円筒(ハブと呼んでいます)の形状は,解析により算出した複雑な形状となっており,機械加工が難しいものとなっています.さて,3Dプリンタ造形物(特に樹脂系のもの)を宇宙で使おうとする際,以下のようなことが問題になります.
- 放射線・紫外線などの宇宙環境に耐えられる,かつ低アウトガスの材料を使って造形できるか?
- 要求される精度で造形できるか?
- 打ち上げ振動や衝撃に耐えられるか?
1に関しては,放射線・紫外線に強く低アウトガスのPEEK等のスーパーエンプラが造形可能な3Dプリンタが世に出始めており,解決されつつあります.研究室でもそういったものを購入して現在使用しています.2に関しては,3Dプリンタ造形物の加工精度は機械加工に比べると劣るため,精度が必要なところは追加工をおこなったり,インサート成型(一部に金属を使って一体成型すること)ができないかということを,現在検討しているところです.3に関しては,そもそも材料として強度を向上させるために炭素繊維が混合されたものを使用したり,造形のスピードや冷却ファンの動かし方によっても強度が変わるため,そういったパラメータを調整しながら強度を高めるということをこれから行っていく予定です.最終的には解析だったり試験をして,振動荷重や衝撃に耐えられるか確かめることになります.
3Dプリンタ造形物を使用した展開構造に関して,ここ1,2年で宇宙実証の機会がありそうなので,そこに向けて現在上記の問題に取り組んでいます.また,この件に関して進捗等があればブログでもお伝えしたいと思います.