膜面宇宙構造物の熱設計?

こんばんは,cosmobloomの中村です.

本格的な夏到来ということで体にこたえる暑さが続く今日この頃ですが,この時期に外でスマホを使っていると熱々になって,動作が重くなったり・おかしくなったりといったことを経験された方も多いのではないでしょうか.スマホが熱くなってしまうのは,外から太陽の熱が入ったり,スマホを使うことで内部の電子機器が発熱したりするためです.熱くなりすぎた場合,内部の電子機器が故障して,最悪の場合は動かなくなってしまいます.暑い時にスマホの動作が重くなるのは,電子機器が故障する温度に達しないようにスマホ自体が動作を制限するために起こる,というのが大半のケースかと思います.

こういった状況は宇宙機にも起こりえます.宇宙機を取り巻く熱環境は過酷で,地球の周りをまわる宇宙機には強烈な日差しを浴びる灼熱のような時間と,地球の影に隠れてほぼ絶対零度の極寒となる時間が繰り返し訪れます.このような環境下で内部の電子機器等が壊れないように,具体的には内部機器の温度がそれぞれに定められた動作温度の範囲内に収まるように宇宙機の設計を進める必要があります.

宇宙機の内部機器温度は,太陽光などの外部からの熱入力と内部機器の発熱に対して,どれだけ宇宙空間に熱を逃がすかという放熱量のバランスで決まります.宇宙機は基本的には外を断熱材で覆って外部の過酷な熱環境から機器を守るように設計していきますが(衛星の外観にみられる金色は断熱材の色です),機器を動作させると熱くなりすぎることがあるため適切に放熱する必要があります.宇宙機は地上と違って周りに空気がないため,宇宙に輻射することでしか放熱できません.熱を逃がすのに空気の対流を使えないというのはかなり厳しい制約で,宇宙機の熱設計において難しい点になります.この放熱ですが,具体的には宇宙空間に大きな面積がさらされていて直射日光が当たりずらいような場所に発熱の大きい機器を配置して外部への排熱を促したり,効率よく輻射するためのラジエータまで熱を運んで排熱したりといったことを行います.

また機器が冷えすぎるということに対しても注意する必要があります.特に気にするのはバッテリーで,低温に弱いので温めるためのヒータを搭載するといった対策を行います.CubeSatのような小さい衛星だと,周りは太陽電池で囲まれていて断熱材でくるむといったことができず,バッテリが冷えすぎるというのがたびたび問題になります.低リソースの中,ヒータで電力をくうのが痛いということもあって,衛星の中では比較的暖かくなる中心部分に配置したり,発熱の大きい機器をバッテリ付近に配置するといった工夫を行って対応することもあります.

この熱設計ですが,膜面構造となるとさらに難しさを増します.膜面にデバイスやICを搭載するとなるとそれらが直に宇宙空間にさらされるため,デバイスを動かしていなくても熱くなりすぎたり,逆に冷えすぎたりといったことが起きる可能性があります.姿勢を変えることで熱入力をコントロールできる可能性はありますが,運用に制約が出てしまったり,そもそも大きな構造は姿勢を変えるのが難しいといった問題があります(SSPSのような巨大な構造では到底無理です).またデバイスを動かすとなると当然発熱しますが,薄くて軽い膜面は熱容量が小さく,ほとんど熱の逃げ場がないためデバイスをうまく放熱することが難しいと考えられます.そのため熱くなりすぎる場合は,スマホのように動作を制限させなければいけないかもしれません.例えば膜面アンテナとして使うとなれば,運用時間を意図的に減らしたり,出力を下げたりといったことになってしまうかと思います.

現在研究室で開発中の軽量膜面レクテナにおいては,ミッション中にそこまで長く動かすことはないため,一応放熱の対策はしつつもできるとこまで,といったところに収めていますが,cosmobloomとしては将来の宇宙構造物の実現に向けて上記の問題に取り組むべきと考えており,まだまだ概念レベルではありますが検討を進めているところです.