宇宙構造物の形状を測る

こんにちは,cosmobloomの中村です.

近年,人工衛星は開発期間短縮・低コスト等を狙って小型に仕上げるのが流行りとなっていますが,寸法が大きいことが必要とされるコンポーネントも依然として存在します.例えば、通信アンテナや,天文観測のための望遠鏡,太陽電池パネルなどは,一般に大きければ大きいほど高性能であるため,さらなる大型化が求められています.cosmobloomは,これらを膜やケーブルといった極めて薄く細い部材で構築することで,構造をより軽量に,よりコンパクトに収納することを目指して研究開発を進めているわけですが,こういった軽量化・収納の高効率化のほかに求められる要求が,形状の高精度化です.これは,前述のアンテナや望遠鏡の性能向上のためは,単に大きくするだけでは不十分で,大型化しながら構造の精度を維持または向上させる必要があるためです.

これまで,宇宙構造物の形状というのは,衛星に搭載したカメラで撮影して展開した・しなかったの確認のために取得するというのがほとんどで,構造がどのような挙動で展開したか,展開後にどういう形状になったかを定量的に計測した例はあまりありません.しかし,展開構造の精度や信頼性を高めるためには,軌道上で起きている現象を正しく理解する必要があり,そのためには定量的な計測データがどうしても欲しくなります.また,構造の精度をさらに向上させようとする場合,軌道上で形状を制御するといったことが必要になりますが,このためにもなんらかの手段で形状を測り,その結果を制御にフィードバックしなければなりません.こういった理由で構造の形状計測というのは,宇宙構造分野において重要な研究テーマの一つとなっています.

モノの形を測る手法としては,地上では複数のカメラ画像・映像によるフォトグラメトリ(2つのカメラを用いるステレオ視が一般的です)やレーザー変位計を用いた計測法が広く用いられています.また,格子投影法と呼ばれる,プロジェクタ等で対象物に格子を投影し,物体の表面に映ったパターンを見ることによって物体の3次元形状を計測する手法も盛んに研究されています.この手法は高精度に広いエリアの計測が行えるため,地上においては我々も格子投影法とステレオ視の技術を用いて,展開後の膜の形状等を計測しています.

ただ,宇宙で計測を行うとなると地上のようにはいかず,カメラでの撮影ということを考慮すると,照明の問題(自然光を使おうとすると大きな構造物を適切な姿勢となるように動かさないといけない,別途照明を使おうとすると電源リソースが足りない等)や,形状測定の計算にかかるマシンパワーの問題等いろいろと問題がでてきます.また,そもそも膜やケーブルで構造を軽くコンパクトに作り上げたとしても,計測システムが重く大きなものとなってしまっては本末転倒となってしまうため,計測システムもコンパクトに軽く,ということが求められます.地上のシステムはプロジェクタ等を用いており,どのくらいの規模の衛星に乗せるかにもよりますが,超小型衛星やCubeSatに乗せるには少し大きすぎるものとなっています.

宇宙で計測を行う場合,上記のように様々な問題があるためそれなりに難易度が高いものとなっており,それに伴って膜構造の高精度化もそれほど進んでいないのが現状です.cosmobloomでは高精度化へのアプローチとして,まずは軌道上の計測・制御なしに,地上での計測・試験・解析・調整を踏まえてどこまで軌道上での精度を追求できるか,ということに取り組んでいますが,やはり軌道上での定量的な形状データ取得というのはあきらめたくないというのが本音で,遅ればせながら研究を始めたところです.直近では,OHISAMAにて軌道上での計測に挑戦する予定であり,シンプルなシステムでそこそこの精度で計測ができる,ということを示せればと考えています.

技術顧問

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