水槽の中の宇宙

こんにちは,cosmobloomエンジニアの折居です.

軽量性と収納性に優れつつ,さらに平面精度の高い膜面展開宇宙構造物を実現するうえで,膜面の折り癖を力学的に再現し,平面精度に及ぼす影響を事前に見積もることが肝要です.そのためには,実際に膜面を折り畳み,ばね剛性や初期たわみ角といった折り目特性を同定することが必要不可欠となります.

特に,収納性・軽量性をより一層追求する流れから,これまでにない薄さの膜面が用いられるようになってきており,このような非常に薄い膜面に対しても適用できる同定手法が望まれています.

従来手法においては,膜面の先端に錘をぶら下げて,形状から折り目の剛性と初期たわみ角を同定していましたが,この手法は特に非常に薄い膜面の場合,折り癖が付きにくいこと,重力の影響から形状が現れにくいことなどから,適用できる薄さに限界があります.この解決策のひとつとして,重力補償によって変形を現れやすくする手法が考えられます.

一般的な重力補償の手法としては,自由落下を利用する手法,例えば無重力落下塔を用いる手法などが挙げられますが,手軽さに利用できないこと,数秒間しか微小重力状態を作り出せないことなどの問題点があります.さらにもう少し手軽なものとしては,ヨーヨー式無重力発生装置などが挙げられますが,いずれにしても数秒間の無重力状態しか作れません.

一方,水溶液の浮力を利用した重力補償の手法は,手軽かつ長時間にわたり微小重力環境を作り出すことが可能です.また,この手法は従来の折り目特性の同定手法と組み合わせて用いることができ,特に薄い膜面に対して優位性の高い手法となり得ます.

現在は,このような新しい手法の成立性を評価しているところで,水槽に水溶液を張り,膜面の形状を観察する実験を実施中です.水槽中の膜面は思った以上に”活き活き”としており,あたかも水槽の中に小さな宇宙があるかのような感覚さえ覚えます.大変なことが多い実験なのですが,素朴な面白さに魅せられてしまい手が動いてしまうことは,楽しくもあり,辛くもあります.

cosmobloom

前の記事

宇宙構造物の形状を測る