極限までの軽量化

こんばんは,cosmobloomの中村です.

人工衛星に携わる人にとっては当たり前のことかもしれませんが,衛星の主構造に,地上で一番使われている金属である鉄が使われることはほとんど(ほぼ100%?)なく,その代わりにアルミ合金が使われています.これは,ロケットに載って宇宙まで飛んでいく物体に対して大前提として軽量化が強く要求されるためです(アルミは鉄の約1/3の重さです).さらに軽量化が要求される場合はCFRPやアルミハニカムパネル(ハチの巣の形にくりぬかれたアルミを薄いCFRPで挟んだ構造)が使われることもあります.こういった材料というのは,軽いというのはもちろん,打ち上げ時の厳しい環境に耐えられるだけの強さがあるために,長い間宇宙機に採用され続けています.

人工衛星の部品はそのほとんどがアルミかCFRPか,といった世界なので,そういった開発をちょっとでもやったことがある人は,宇宙で使うものにはアルミを使っておけばいい,もっと軽くしたければCFRPを使えばいい,という感じなのかもしれません.しかし,我々が開発している展開構造を使ったミッションにおいては,これまで以上の軽量化というのが要求されることが多く,実際に設計していてそれに応えていくことが難しいと感じることがあります.また,これから先の未来の宇宙構造物ミッション(ソーラーセイルやSSPS)を実現していくためにも,「極限までの軽量化」というのは私たちcosmobloomの永遠のテーマです.こういったことから,さらに軽い材料である樹脂材料,プラスチックが使えればいいのに,と思うことがあります.

宇宙で樹脂材料が使えるか?といわれるとそう簡単にはいかず,以下のようなことを考慮する必要があります.

  1. 強度は足りるか?
  2. クリープは問題にならないか?(長時間にわたって荷重をかけるとゆっくり変形していく現象で,これによってねじが緩んだり,展開構造の保持力が弱まる可能性がある)
  3. 温度変化は問題にならないか?(金属と比べて温度変化に対して変形しやすく,その変形により部品に負荷がかからないか?)
  4. 放射線に対して耐性はあるか?
  5. 紫外線に対して耐性はあるか?
  6. 原子状酸素に対して耐性はあるか?(宇宙空間を漂う酸素原子で,400km以上の軌道ではあまり気にしなくてよいが,それ以下では注意が必要)
  7. アウトガスが多量でないか?(真空で放出されるガスであり,そのガスが電子機器の動作や光学機器の性能に影響を及ぼすことがある)

上記のようなことから,樹脂材料を宇宙で使うにはなかなか難しい,ということになっていて,宇宙機において樹脂材料は,そのほとんどが摺動・潤滑目的,断熱目的や絶縁目的など,局所的な用途に限られているのが現状です.(それでも,他のプロジェクトの話を聞いている感じでは,樹脂材料を採用すると度々問題が起こるそうなのですが.)

以上より,樹脂材料の軽さというのは魅力的ではあるものの,宇宙で使うにはなかなか難しそう,というのが幾ばくか分かっていただけたかと思います.しかし,「極限までの軽量化」を追求するcosmobloomにとっては挑戦すべき領域と考えており,現時点では,事前の解析と十分な試験・検証を行い,樹脂を使えるところには使っていこうというスタンスで設計開発に取り組んでいます.実際,OHISAMA搭載のレクテナは,上記のことを考慮しつつ材料選定を行い,シャフト,歯車,ねじ,伸展ブーム以外は主構造部も含めて樹脂材料(一部CFRP)で構成しています.現在は各種試験で問題ないことを確認しているところです(あとちょっとでこの構造に関しては手中に収められそう,というとこまで来ています).自身の未熟さもあり開発の中で難しさを感じることは多々あるのですが,これを乗り越えて知見とし,未来の展開構造の実現に向けて1歩ずつ前進できればと思います.