構造保存型解法

こんにちは。宮崎です(左の図は研究室で使っている実験室の絵です。雑然としすぎているので、なんとかきれいにしたい、と思う今日この頃です)。

膜面や薄いシート、ケーブル等、極めて柔軟なものかな成る構造はゴッサマー構造と呼ばれます。そして、これを宇宙で利用しようという研究は古くからあり、2000年頃、特によく研究されていました。こういった構造の運動は、高周波と低周波や剛体運動を伴い、運動方程式はいわゆる“硬い”微分方程式になりますし、ゴッサマー構造が剛な宇宙機に取り付けられている場合、拘束条件は代数方程式になるので、“硬い”微分方程式と代数方程式がセットになった、なかなか計算しづらい(数値安定性の低い)方程式を解くことになります。

さらに、膜やケーブルは、わずかな圧縮力で分岐座屈を起こし、しわやたるみを生じてしまい、引張状態と比べて剛性が著しく落ちます。しかり、引張状態になってしわやたるみが無くなれば、再び剛性は上がります。したがって、運動中にしわが生じたりなくなったりすることが起きると、高周波は生じやすくなりますし、陰解法で運動方程式を解く場合には収束性が悪くなりますので、さらに解きづらくなってきます。

こうなると、「計算を走らせたら発散した」、「収束しない」、「時間刻み幅を小さくしないと計算が回らないけど、小さくすると、全然、時間が進まない」ということになり、哀しい思いをすることになります。

また、宇宙のように外力が(理想的には)作用しない空間では、力学的エネルギや運動量、角運動量は保存するはずですが、何も工夫せずに解くと、エネルギや角運動量はまず保存されません。したがって、運動自体の物理的な安定性を論じるのが難しくなります。

ですので、数値的に安定で、保存すべきものは保存されるような解き方に解きたい、ということになります。この要求をかなえてくれる解法は、総じて「構造保存解法」と呼ばれます。その一つがEnergy-Momentum Method(EMM)であり、cosmobloomの解析コードNEDAはEMMを採用しています(といいますか、自分たちが開発した手法が、EMMと呼ばれる手法と本質的に同じだったことが後でわかった、というところです)。

これによって、NEDAはゴッサマー構造の展開運動など、幾何学的非線形性の高い運動を解けるようになっています。ただし、適切な数値解を得るためには、解法だけでなく、数学モデルも適切なものである必要があります。これが意外と簡単ではないのですが、cosmobloomとしては、ここを可能な限り自動化したいと思っています。

宮崎 康行